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第2話 私立探偵ボブ

まず、大文字のアルファベットのH、続いてO。その横にカタカナのト、らしき文字。


その紙には、それらが乱雑に殴り書きしてあった。


丸メガネが一瞬、姿勢を低くする。こいつは話し始める時にこうする癖があるのをこのハンサムは気づきはじめている。


「青木は…」


案の定ゴミメガネが口を開く。


「青木は、頭が悪いんです。アルファベットなんていうもの、知っているわけがないし、書けるわけがないんです」


「ではこれは…」


すぐに口を開くこともできたが、探偵たるもの、間を大切にしなければならない。シャーロックホームズだって、名探偵コナンだって、核心をつくセリフの前には間を取るものだ。


「青木ではない人物の文字である可能性が高い、と…?」


そう言いながら、私は持っているその紙をおもむろに口の中へ入れた。明らかに違和感のある歯ざわりの物体が口の中に入りきったのを確認し、咀嚼する。

メガネトンボおよび後ろの女子たちが軽く悲鳴をあげて、何をするのだ、と掴みかからんばかりの表情でこちらを見つめていた。


無理もない。私にも意味はわからない。

ただ、面倒くさくなったのだ。いつもは離婚訴訟、浮気調査ばかりの事務所に、こんなにも事件性の高い案件。謎の暗号付き。警察に行け、と思う。思ううちに、手がかりの紙を食べてしまっているというだけの話である。


はじめのうちはレタス・サラダのような食感で頂けていたが、咀嚼を続けるうちにネチョネチョとしたものに変化していき、かなり辛い。


わたしは次に、言葉を失い、震えているオシャレメガネがばいの眼鏡に手をかけ、引き抜く。そうして迷いもなく、その眼鏡を口へと運び、噛み砕いた。これは中々、カンロ飴を噛んで食べるような雰囲気で、頂けないこともない。

3人は目に涙を浮かべているようでもあった。


無理もない。繰り返しになるが、私にも意味がわからないし、意味がわからないうちに絶対に食べてはならぬ手がかりの紙をうっかり食べてしまい、食べた後の空気に耐えられず、もしくは、どうすれば良いのかわからず、依頼者の眼鏡を食べてしまっているというだけの話である。


食べたことのある方はお分かりだろうが、眼鏡というものは、固い。


かなりの力をいれて、噛む。


パキパキと、ガラスとプラスチックの割れる音が心地よくもなってきた。


噛む


口の中が傷ついている。


噛む


だんだんと咀嚼しやすい大きさになるのがわかる。


もぐもぐ


もぐもぐ



もぐもぐ…


そうするうちに、たんていさんはとうとう、めがねをたべおえてしまいました。



さあて、はらぺこたんていさんは、つぎになにをたべるかな?




(あいりょん)