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ドラえもんと僕(片渕)





※注「映画ドラえもんのび太の月面探査記」のネタバレが多少あります
 
 
 
 
 
「今夜七時に集合ね!」
 
ドラえもんの魅力はこのセリフにすべて詰まっていると思う。
 
夜七時に集合し何をするのか。
 
カラオケ?
勉強会?
友達の誕生日パーティ?
 
いや違う
 
月に行くのである。
 
思えばのび太たちはこれまでいくつもの冒険をし、世界を救ってきた。
しかし彼らはヒーローではない。ごくごくふつうの小学5年生である。
冒険のきっかけはいつものび太だ。
家出をしたい。秘境を見たい。魔法の世界にしたい。
子供なら誰でも夢見る世界を、子守ロボットという名のおせっかい焼きドラえもんが実現させる。
そしてのび太の勝手な思いつきにクラスメイトたちも巻き込まれていく。
 
遊びの延長から生まれた世界が、のび太たちを冒険に誘う。
 
 
ドラえもん映画の一番の醍醐味はこの「遊びの延長」という部分にあると僕は思う。
今回の「月面探査記」においても、のび太の思いつきでたまたま月へ行っただけなのだ。
そこで偶然友情を育み、結果的に世界を救うことになっただけの事なのである。
 
だから、命にかかわるかもしれない危険な冒険へ月へと旅立つ際も、
地球との別れに涙を流したり、
物々しくスペースシャトルに乗ったりする必要などない。
 
夜七時に裏山に集合すればいいのだ。
そこへ行けばドラえもんがいて気球を膨らましてくれている。
 
そんな「些細なきっかけから生まれた大きな冒険」という映画ドラえもんにとっての永遠のテーマを深く理解し、
描写してくれた「映画ドラえもんのび太の月面探査記」は名作だったと言わざるを得ない。
 
リニューアルしてからの映画ドラえもんは、随所に原作への愛を感じられる演出が見られることが多かった。
しかしそれは原作のマニアックな道具が出てきたり、藤子先生の別漫画のキャラクターの登場など、
ファンサービスの範疇から抜け出せているものは少なかったように感じる。
しかし今回は、かつて藤子先生が創り出した「大長編ドラえもん」と真っ向から向き合い、
良い意味での「らしさ」を押さえながら、今の時代原作者が存命であればきっと描かれたであろうドラえもんの世界を存分に楽しめる内容であった。
制作者陣の原作への愛と、原作からの想像力に満ち溢れた現代版大長編ドラえもんである。
 
 
最後に、ドラえもんが今回の敵に言い放つセリフがある。
 
「想像力は未来だ!想像を諦めた時に破壊が生まれるんだ!」
 
序盤から中盤にかけて、日常においてののび太たちの些細な思いつきや、小さな発見と感動を描写したからこそ映える言葉だ。
派手な映像だけで強引に引っ張るのではない、力強い説得力が「月面探査記」にはあった。

それは観客も知らず知らずのうちにのび太の想像力に巻き込まれていたからだ。
 
のび太、ドラえもん、しずか、ジャイアン、スネ夫の他にもうひとり、僕もそこにいた。一緒に月の世界で笑い、冒険をした。

その証拠に映画館を後にしたあと、真っ先に月を見上げたくなるし、裏山へ集合したくなる。
きっと月にはウサギがいるし、裏山ではドラえもんが今まさに月へ向かうためにああでもないこうでもないと頭を悩ませていることであろう。
 

P.S. 今回の入場者全員プレゼント、異説クラブメンバーズバッチだったらテンションブチあがりだったろうなあ(オタクの戯言)




~感想文への感想~
片渕くんのドラえもんへの愛がビンビン伝わってくる文章なのでしょうね。注釈でネタバレ含まれていると書かれてたので読んでません。きっと金曜ロードショーでいつか見るから。(青木)


春の窓際、校庭を眺めていたら、ふわりと風に乗って金木犀の香りがするように。
ふわりと文字に乗って中年オヤジの匂いがした。(だーまえ)



長い。(愛里)

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